宇宙の歪みをAIで暴く!重力レンズ効果の解析を加速するグラフニューラルネットワーク(GNN)
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アインシュタインの一般相対性理論が予言した最も魅惑的な現象の一つが「重力レンズ」である。大質量を持つ天体(銀河や銀河団)の重力によって、その後方にある天体から発せられた光が曲げられ、リング状や弓状に引き伸ばされて観測される現象だ。
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡などの稼働により、日々膨大な数の重力レンズ画像がもたらされているが、その解析には天文学的な計算時間を要していた。ここに近年、AI——特にグラフニューラルネットワーク(GNN)——が導入され、解析スピードが数万倍に加速している。
従来の「重力レンズ解析」の計算壁
歪んだ光の輪(アインシュタインリングなど)から、手前にある「レンズ天体」の質量分布(目に見えないダークマターを含む)や、奥にある「光源天体」の本来の姿を再構成する作業は、数学的には極めて複雑な逆問題である。
従来は、MCMC(マルコフ連鎖モンテカルロ法)を用いた物理パラメータのフィッティングシミュレーションが主流だった。これは、質量モデルを少しずつ変えながら何度も光の経路計算を行い、観測画像に最も一致するモデルを探す方法だ。この手法は極めて正確だが、画像1枚の解析に数時間から数日という膨大な計算時間を必要とし、将来のサーベイ観測(数百万枚の銀河画像)には到底対応できない。
CNNからGNN(グラフニューラルネットワーク)への移行
最初のブレイクスルーは、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)の導入だった。CNNは画像を直接入力し、ミリ秒単位で質量パラメータを出力できる。しかし、CNNには「画像のグリッド(ピクセル配置)に依存する」という弱点があり、銀河の不規則な配置や、観測ノイズ、解像度の変更に対して頑健ではない。
そこで注目されているのが、グラフニューラルネットワーク(GNN)である。GNNは、データを「ノード(点)」と「エッジ(線)」からなるグラフ構造として扱う。
重力レンズ宇宙のモデリングにおいて、GNNは以下のように機能する。
- 空間情報のグラフ化: 歪んだアインシュタインリングの各輝度領域や、周囲の周囲銀河をノードとする。ノード同士の距離や重力的な相互関係をエッジとして定義する。
- メッセージパッシング: 各天体や質量塊の相関関係を、エッジを通じて反復的に伝播・更新させる。これにより、単なるピクセル値の羅列ではなく、天体同士の物理的な重力相互作用をニューラルネットワーク内で表現できる。
- パラメータ再構成: GNNは、ピクセルの解像度に左右されることなく、任意の不規則形状から天体の質量マップを数ミリ秒で推論する。
GNNがもたらす宇宙論の未来
最新のシミュレーション研究では、GNNを用いることで、ダークマターの微細な質量分布(ハロー構造)の解析において、CNNより20%以上高い精度を達成しつつ、計算時間を従来シミュレーションの数万分の一に短縮したことが報告されている。
この宇宙AI技術の発展により、宇宙の全質量の約85%を占めるとされるダークマターの謎や、宇宙の膨張速度を示すハッブル定数の精密な測定が大きく前進すると期待されている。
お役立ち情報
- Astrophysics with GNNs (ArXiv): 宇宙物理学および重力レンズ解析におけるグラフニューラルネットワークの適用に関するサーベイ論文(英語)。
- JWST 重力レンズ画像ギャラリー: ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が捉えた、極めて精細な重力レンズ銀河団(SMACS 0723)の公式画像集。
- GNN(グラフニューラルネットワーク)の基礎解説(Qiita): グラフ表現学習とGNNの数理的な基礎知識を初心者向けに解説した日本語記事。