ロードバイクと電子工作:サイコンのデータをエッジAIで自作音声アシスタントに流し込む夢
自転車(ロードバイク)に乗っているとき、走行速度やケイデンス(ペダルの回転数)、心拍数、パワーといった様々な数値データをリアルタイムで確認することは、ペーシングや自身の疲労管理において非常に重要です。
現代の多くのサイクリストは、GPS搭載のサイクルコンピューター(サイコン)をハンドルにマウントして走っています。しかし、画面を凝視することは前方不注意による事故のリスクを高めます。
そこで、もし「走行中の状況を音声で対話的にガイドしてくれる、自分専属のAIアシスタント」がロードバイクに搭載されていたらどうでしょうか?今回は、シングルボードコンピュータとエッジAI技術を組み合わせて、オリジナルのスマートサイコンを作るDIYの設計思想と夢について語ります。
出典: ThisIsEngineering / Pexels
ロードバイクを「スマート化」したい
一般的なサイコンは、センサーが取得した数値をただ画面に表示するだけです。「ケイデンスが落ちているからギアを下げよう」といった判断はライダー本人が頭で行う必要があります。
しかし、長距離を走って体が疲弊してくると、脳の判断力も低下します。そこで、走行状況やバイタルデータをエッジデバイス側で常に監視・分析し、必要なタイミングで必要なガイダンスを教えてくれる存在が求められます。
また、スマートフォンアプリでも同様の試みはありますが、完全にオフライン(山奥などの電波が届かない場所)でも動作し、かつセンサーからの生データをダイレクトに制御できるハードウェアの自作には、独自の面白さと実用性があります。
エッジAIによる設計システム
この自作スマートサイコンの構成案は、以下の3つのステップで成り立ちます。
1. センサーデータの集約
スピード・ケイデンス・パワー・心拍などのセンサー群は、スポーツ用無線規格である「ANT+」やBluetoothを通じてデータを送信しています。これらをハンドル下やサドルバッグに仕込んだ Raspberry Pi 5 等のボードにドングル経由で集約します。GPSモジュールも接続して、現在位置や登坂中の斜度も取得します。
2. ローカルLLMによる状況分析
集約したデータを一定時間(例: 30秒)ごとにログとして蓄積し、同じくRaspberry Pi上で動作する軽量な ローカルLLM(Llama-3.2-1B-Instructなど)に入力します。 プロンプトの構成例は以下のようなものです。
「あなたはプロのサイクルコーチです。現在のデータ:速度24km/h、ケイデンス65、心拍数155、残り登り斜度8%。これに基づき、ライダーに現在のペーシングに対する改善点や励ましを15文字程度でアドバイスしてください」
3. 音声によるフィードバック
LLMが生成したテキストを、日本語のローカルText-to-Speech(TTS)エンジン(Kokoro-82Mなど)で音声ファイルに変え、ライダーが装着した骨伝導イヤホンへBluetoothで出力します。これにより、視線を一切動かすことなく、耳から「ケイデンスをあと10上げてください。登りの後半です」といった的確なコーチングを受けることができます。
直面する課題と今後の展望
このシステムを本当に実用化するにあたって、最大の課題は「消費電力」と「筐体の設計」です。
Raspberry Pi 5は高性能ですが、ローカルLLMやTTSを連続稼働させると消費電力が上がり、大容量のモバイルバッテリーが必要になります。これはバイクの軽量化とトレードオフになります。また、屋外を高速走行するため、精密機械への激しい振動や、突然の雨に対する防水・防塵対策(3Dプリンターで密閉エンクロージャーを設計するなど)も不可欠です。
それでも、エッジAIの急速な進化と省電力ハードウェアの登場により、こうした「完全オフラインのスマートサイコン」が現実的な予算で自作できる時代が近づいています。自分の好みの音声やキャラクターで走りをサポートしてくれるAIサイクルコンピューターを組み立てる。そんな週末の電子工作を、私は本気で構想しています。
お役立ち情報
- Raspberry Pi 5 Official Page : シングルボードコンピュータのデファクトスタンダード、Raspberry Pi 5 の公式サイト(英語)。
- Ollama - Run LLMs locally : ローカル環境で軽量LLMを簡単かつ高速に実行できるプラットフォームの公式サイト(英語)。
- This Is ANT : フィットネス機器で広く使われている無線通信規格「ANT+」の公式サイト(英語)。
- 週刊アスキー:ラズパイでIoT電子工作 : Raspberry Piを使用した電子工作の初歩やセンサー連携のアイデアが参考になる日本語の紹介記事(日本語・週刊アスキー)。