細胞の中に、もと別の生きもの——ミトコンドリアの起源
私たちの体をつくる細胞の中には、エネルギーを生み出す「ミトコンドリア」という小さな器官がある。理科で習うこの器官には、ぞっとするほど面白い来歴がある——もともとは、別の生きものだったらしいのだ。今の私たちの細胞は、太古に起きた「合体」の子孫だという。その物語を解く鍵が細胞内共生説だ。
ミトコンドリアは「もと別の生きもの」
ミトコンドリアは、細胞が酸素を使ってエネルギー(ATP)を取り出す「発電所」だ。細胞内共生説によれば、これはかつて自由に生きていた好気性細菌(酸素を使う細菌)が、約20億年前に別の細胞へ取り込まれ、そのまま追い出されずに住み着いたものだとされる。食べられたのか、逃げ込んだのかは諸説あるが、取り込んだ側は効率のよいエネルギー生産を、取り込まれた側は安全な住みかを得て、両者は共生関係に落ち着いた——という筋書きだ。
植物の細胞にある葉緑体も同じで、光合成をするシアノバクテリアが取り込まれたものと考えられている。
証拠:独自のDNA・二重の膜・分裂で増える
「もと別の生きもの」なんて飛躍に聞こえるが、ミトコンドリアには細菌だった頃の名残が、しっかり残っている。
- 独自のDNAを持つ:ミトコンドリアは、細胞の核とは別に自前のDNA(mtDNA)を持っている。元が独立した生きものだったからだ。
- 二重の膜に包まれている:取り込まれたときの「自分の膜」と、取り込んだ細胞の膜の、二枚構造になっている。
- 自分で分裂して増える:細胞に丸ごと作られるのではなく、細菌のように分裂して数を増やす。
- 細菌型のリボソームを持つなど、内部の部品が細菌に似ている。
これらは、ミトコンドリアがかつて独立した細菌だったと考えると、すっきり説明がつく。
リン・マーギュリスが広めた説
この大胆な考えは、20世紀のはじめにはすでに芽があった。だが長く傍流の説にとどまり、本格的に世に認めさせたのが、アメリカの生物学者リン・マーギュリスだ。彼女は1967年の論文で証拠を束ねて細胞内共生説を主張した。当初は学界から強く退けられたが、後にmtDNAの解析などが裏づけとなり、今では教科書に載る定説になっている。「競争」だけでなく「共生」こそ進化の原動力だ、という彼女の視点は、生物学の見方そのものを広げた。
私たちは合体生物の子孫
つまり、酸素で呼吸する私たちの細胞は、20億年前に起きた異種細胞どうしの合体の、長い長い子孫である。母から子へ受け継がれるmtDNAをたどる「ミトコンドリア・イブ」の話も、この太古の同居人の存在があってこそ成り立つ。
ふだん意識しない細胞の中に、別の生きものの記憶が今も息づいている——そう思うと、自分の体が少し違って見えてこないだろうか。
お役立ち情報
- 📄 細胞内共生説とは? 意味や使い方(コトバンク)
- 複数の辞典の定義をまとめた、信頼できる日本語の用語解説。まず意味を押さえたいときに。
- 📄 細胞内共生説:ミトコンドリアと葉緑体の起源(せいぶつ農国)
- 説の根拠(独自DNA・二重膜・分裂)を図解で整理した、生物学の日本語解説。
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- 説の歴史と論争を掘り下げた書籍の書評。もう一歩深く知りたい人向け。
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