ピンクの惑星に降る「塩の雨」:ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が捉えた伴星GJ 504bの金属塩の雲
地球からおとめ座の方向に約57光年離れた場所に、その異常な若さと高温ゆえに不気味なピンク色に輝く巨大な天体が存在します。それが、太陽に似た恒星の周囲を回る巨大伴星「GJ 504b」です。
2026年6月、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)を用いた国際研究チームの観測により、この天体の大気中に「塩(岩塩や金属塩)の雲」が存在することを示す直接的な証拠が世界で初めて得られました。これまで理論モデル上でのみ予測されていた「奇妙な金属雲」の実在が証明されたことで、系外惑星の大気物理学は新たなステージへと突入しました。
「惑星」と「失敗した恒星」の境界に浮かぶ巨大天体
GJ 504bは、木星の約25倍という巨大な質量を持ち、年齢は25億〜40億年と推定されています。この性質は、一般的な太陽系外惑星の基準をはるかに超えており、恒星になりきれなかった天体である褐色矮星との境界線上に位置する非常にユニークな存在です。
この天体は有効温度が約564ケルビン(約290℃)と非常に高温で、水が液体の雨として降るには熱すぎますが、金属や岩石の成分が気化したり凝縮したりするには絶妙な温度領域にあります。JWSTに搭載された中赤外線観測装置(MIRI)などによる高コントラスト分光観測データから、水蒸気(H₂O)、メタン(CH₄)、二酸化炭素(CO₂)、アンモニア(NH₃)、さらには硫化水素(H₂S)といった多様な分子が検出されました。
理論を裏付けた「岩石塩・金属塩」の雲
研究チームを最も驚かせたのは、観測された分子のスペクトル(光の吸収パターン)が想定よりも大幅に弱められていた(平坦化していた)点でした。大気の奥深くにあるはずの分子のシグナルが遮られている原因を突き止めるため、さまざまな大気シミュレーションモデルが構築されました。
その結果、大気の上層に「岩石塩(ケイ酸塩や塩化ナトリウムなどの塩類)」や「金属化合物」で構成される微細な雲の層を配置した時のみ、観測データと完全に一致することが判明したのです。
宇宙で雲といえば水やアンモニアが一般的ですが、約290℃という高温環境下では、私たちの生活に馴染み深い「塩」や「岩石」の微粒子が結露して雲を形成します。そして、その雲からは金属塩を含んだ「塩の雨」が絶えず降り注いでいると考えられます。この研究は、アメリカ天文学会が発行する学術誌『The Astronomical Journal』に掲載されました。
系外惑星観測における大きな一歩
今回の発見は、JWSTの圧倒的な解像度と高感度センサーがなければ不可能でした。恒星の強力な光のすぐそばにある、暗く冷たい伴星の大気成分をこれほど詳細に分解できたことは、今後の観測技術のロードマップにおいて極めて重要なマイルストーンです。
私たちはもはや、遠くの惑星が「そこにある」ことだけでなく、その大気の成分や、上空でどのような化学物質の雲が湧き、どんな「雨」が降っているのかまで、具体的に描き出すことができる時代に生きているのです。
お役立ち情報
- 📄 NASA - James Webb Space Telescope (英語)
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の公式ミッションページ。最新の観測画像や宇宙科学の発見プレスリリースが網羅されています。 - 📄 アストロアーツ - 系外惑星関連ニュース (日本語)
日本の天文情報サイト。系外惑星の発見や宇宙物理学の最新研究成果を、分かりやすい日本語の解説記事で発信しています。 - 📄 The Astronomical Journal (英語)
今回のGJ 504bの観測論文をはじめ、系外惑星や星周環境に関する最新の査読済み論文が掲載される世界最高峰の天文学術誌です。
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