旅の記憶を味わい深く残す。トラベルエディターが実践する「温泉手帳」のすすめ
スマートフォンで簡単に高画質な写真が撮れ、SNSに瞬時に旅の記録をアップできる時代です。だからこそ、私はあえて一台のカメラと、一冊の小さなノート、そして万年筆を持って旅に出ます。私の旅のライフワークである「温泉手帳」づくりは、湯上がりの火照った体を涼める僅かな時間の中で、その日浴びた湯の温もりや風情を紙に書き留める静かな儀式です。今回は、旅の解像度を格段に高める「温泉手帳」の魅力とその実践テクニックを紹介します。
なぜ今、アナログの手帳なのか?手書きがもたらす旅の余白
数千枚の写真がスマートフォンのストレージに埋もれていく中、手書きのノートは不思議と「その瞬間の空気感」をパッケージしてくれます。文字の乱れからはその時の高揚や疲れが伝わり、余白に貼った切符やパンフレットからは手触りの記憶が蘇ります。
特に温泉街は、レトロな木造建築や立ち上る湯煙など、五感を刺激する要素に満ちています。スマートフォンの画面を通して世界を見るのを少しだけ休み、五感で受け取った感覚を自らの手で言語化する作業は、旅そのものをより深く味わい直すプロセスに他なりません。
何を書く?「温泉手帳」に記録したい4つの切り口
何を書いていいか迷ってしまう方は、以下の4つの切り口で整理して記録するのがおすすめです。
1. 温泉の「基本データ」
温泉の入り口や脱衣所には、法律で義務付けられた「温泉分析書」が必ず掲示されています。ここから、源泉名、湧出地、泉温、pH値、そして泉質名(例: 単純温泉、酸性硫酸塩泉など)を書き写します。これをするだけで、温泉への知的好奇心が刺激され、湯の違いが論理的に見えてきます。
2. 体で感じた「五感の記録」
湯の感触を言葉にしてみましょう。
- 色: 無色透明、白濁、うぐいす色、鉄錆色など
- 匂い: ほのかな硫黄臭、お香のような香り、金属臭など
- 肌触り: トロトロ、さらさら、キシキシ、ピリピリなど
- 温度: 長湯できるぬる湯、シャキッと目が覚める熱湯など
3. 宿や温泉街の「雰囲気と味」
湯船から見える景色(新緑、雪景色、あるいは歴史ある梁の木組みなど)や、湯上がりに番台の主人と交わした一言、脱衣所に流れる静かな扇風機の音。そして、湯上がりに飲んだご当地牛乳や地酒の味も大切な記録です。
4. 道中の「移動の軌跡」
どのようなローカル線に乗り、どの駅で降りて、どれくらい坂道を登ったか。移動中の景色や、車内で食べた駅弁の包み紙などもノートを彩る素晴らしい要素です。
挫折しない!長続きさせるためのシンプルな手帳術
手帳作りを趣味として長続きさせるためのコツは、完璧を目指さないことです。
A5以下の「小さなノート」を選ぶ
重いノートは荷物になり、書くこと自体が億劫になります。パスポートサイズや、手のひらに収まるA6サイズ、あるいは持ち運びに特化したトラベラーズノートなどが最適です。
箇条書きで十分と心得る
長文の旅行記を書こうとすると挫折します。「〇月〇日、〇〇温泉 大湯。湯温:熱め(約44度)。肌がキュッとする感覚。脱衣所の木箱が渋い。」といった、短い単語の連なり(ブレッドジャーナル風)で十分です。
チケットや「スタンプ」をフル活用する
旅先では駅の記念スタンプ、観光地の入場券、お菓子の包み紙など、様々な紙片が手に入ります。これをノートのページに糊で貼るだけで、文字を書く面積が減り、かつ視覚的に美しいページが完成します。
お役立ち情報
- 一般社団法人日本温泉協会
温泉の学術的データや正しい知識、全国の温泉地の歴史などを紹介する日本の公式情報サイトです。 - トラベラーズカンパニー (TRAVELER’S COMPANY)
旅を愛する人々に支持されるノートブランドの公式サイトです。ノートの活用術や旅のコラムが満載です。
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