氷はなぜ水に浮くのか——水素結合がつくる「すき間」

氷が水に浮く。 あまりに当たり前で、グラスの中でも北極でも見慣れた光景だ。だが化学の目で見ると、これはかなり奇妙なことが起きている。ほとんどの物質は、冷えて固まると縮んで重くなる——なのに水だけは、凍ると膨らんで軽くなる。この「異常さ」の正体は、水分子どうしを結ぶ特別な手にある。
ふつうの物質は冷えると縮む
物質は温度が下がると、分子の運動がおとなしくなって互いに近づき、ふつうは体積が縮む。最も詰まった状態が固体だから、たいていの物質は「固体のほうが液体より密度が高い(重い)」。だから溶けたロウソクのロウも、金属も、固体は液体に沈む。素直に考えれば、氷も水に沈むはずなのだ。
水素結合が、すき間のある結晶をつくる
ところが水は逆をいく。鍵は水素結合だ。水分子(H₂O)は、酸素側がマイナス、水素側がプラスにわずかに偏っている。このため、ある分子の水素が隣の分子の酸素に引き寄せられる弱い結合——水素結合——ができる。
液体の水では、水分子は水素結合をつくっては切り、ぎゅっと近くに寄り合っている。ところが凍って氷になると、1つの水分子がきっちり4つの相手と水素結合を組み、規則正しく並ぶ。この配置は六角形のすき間(空洞)を多く含む、スカスカの構造になる。雪の結晶が六角形なのも、この分子レベルの六角構造の現れだ。
だから氷は水より軽い
結果として、氷は同じ量の水よりも体積が大きく、密度が小さくなる。つまり氷は水より軽いから浮く。冷凍庫で製氷皿の水が盛り上がったり、放置したペットボトルが凍って膨らんだりするのは、この「凍ると体積が増える」性質そのものだ。
この性質は、地球の生きものにとって決定的に重要でもある。氷が水に浮くおかげで、冬の湖や海は表面から凍り、その氷がフタになって下の水を保温する。もし氷が沈んだら、池は底から凍りついて魚も微生物も生き延びられない。
4℃の水がいちばん重い
水の不思議はもう一つある。水の密度が最大になるのは、凍る0℃ではなく約4℃(正確には約3.98℃)だ。これは、温度が下がると縮もうとする普通の効果と、水素結合がすき間の多い構造をつくろうとする効果が、ちょうど4℃でせめぎ合って釣り合うためだとされる(中谷宇吉郎 雪の科学館の解説)。だから冬の湖では、いちばん重い4℃の水が底にたまり、底だけは凍りにくい。
「氷が浮く」というありふれた事実の裏には、水分子が手をつなぐミクロなしくみと、生きものを守るマクロな結果が、きれいにつながっている。
お役立ち情報
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