温泉の熱でクリーンな電力を!日本で広がる「バイナリー発電」の仕組みと熱の多段階利用システム

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日本は世界第3位の地熱資源ポテンシャルを持つ地熱大国である。しかし、従来の「フラッシュ式」地熱発電は、200℃以上の極めて高温の高圧蒸気を必要とするため、開発候補地が国立公園内に集中していることや、地元の温泉事業者との水資源や景観を巡る調整が難しく、開発が停滞しがちだった。
こうした課題を解決し、比較的小規模かつ穏やかな温度帯で電力を生み出せる技術として急拡大しているのが「バイナリー発電(Binary Cycle Power Generation)」である。
現在、国が検討を進めている「第7次エネルギー基本計画」(2025年2月閣議決定に向けた骨子議論など)でも、地熱発電はカーボンニュートラルの重要なベースロード電源として位置づけられ、2040年度までに現在の約2.7〜5.5倍への拡大が目指されている。今回は、このバイナリー発電の仕組みと、日本独自の「地域共生型」システムデザインについて、エネルギー・システム工学の視点で解説する。
水の代わりに「沸点の低い液体」を沸騰させる
バイナリー発電の「バイナリー(Binary)」とは、「二つの」という意味である。従来の発電が「温泉水・水蒸気」という単一の流体でタービンを直接回すのに対し、バイナリー発電は以下の二つの独立した熱サイクル(流体)を組み合わせて稼働する。
- 一次側(熱源サイクル): 温泉井などから組み上げた70℃〜120℃程度の「中低温の温水・蒸気」。
- 二次側(作動流体サイクル): 水よりも沸点が著しく低い「作動流体」(ペンタンや代替フロンなど、沸点が30℃〜40℃程度の液体)。
システム内部では、一次側の温水の熱を「熱交換器」を介して二次側の作動流体に伝える。すると、作動流体は100℃未満の熱でも瞬時に激しく沸騰し、高圧のガス(蒸気)となってタービンを回し、発電を行う。タービンを回し終えた作動流体は、冷却塔(クーリングタワー)で冷やされて再び液体に戻り、熱交換器へと循環する。
このクローズド(密閉)なシステム設計により、これまで発電に利用できなかった「熱めの温泉」や、工場の「中低温排熱」からも効率よく電気を回収できるのが最大の特徴である。
2025〜2026年に動き出す国内の新プロジェクト
この技術の進歩と政策的な支援策を背景に、日本国内では新たな地熱発電所の運転開始が相次いで計画されている。
- わいた第2地熱発電所(熊本県小国町): 2025年度の稼働を目指して開発が進む、出力4,995kWの中規模発電所。地域住民が出資・運営に関わる先駆的なモデルである。
- 霧島烏帽子岳地熱発電所(鹿児島県霧島市): 2026年度に運転開始が予定されている出力4,990kWの発電所。
- かたつむり山発電所(秋田県湯沢市): 大規模地熱地帯である湯沢市にて2026年度の運転開始を目指す出力14,990kWの発電所。
これらの発電所は、地域社会の合意形成を極めて重視して設計されており、景観に配慮した設備のコンパクト化や、温泉への影響を抑えるための熱交換後の熱水の地下還元技術が取り入れられている。
熱を使い倒す「多段階利用(カスケード利用)」システム
バイナリー発電の本当の価値は、単に「電気をつくる」ことだけにとどまらない。発電を行った後の「少しぬるくなった水(例えば50℃〜60℃)」をさらに有効利用する「多段階利用(カスケード利用)」のシステムインテグレーションにある。
熱は以下のように温度レベルに応じて順番に活用される。
graph TD
A["地熱・温泉源 (約 100℃)"] --> B["バイナリー発電 (電気を出力)"]
B --> C["発電後の温水 (約 60℃)"]
C --> D["地域温水プール・ロードヒーティング"]
C --> E["温室ハウスの加温 (熱帯果実・野菜栽培)"]
C --> F["陸上養殖 (テナガエビなど)"]
F --> G["地元の温泉施設への給湯 (適温に調整)"]
E --> G
D --> G
例えば、福島県の土湯温泉や大分県の温泉地では、バイナリー発電の排熱水を利用してエビの養殖やハウス農業を行い、地元の新たな特産品を生み出している。さらに最終的には適温に調整されたお湯がそのまま温泉旅館の浴槽へと注がれる。
エネルギー資源の「量」だけでなく、そのエネルギーが持つ「質(エクセルギー)」を意識し、温度が高い状態から低い状態へ余すことなくシステム全体で使い切る設計。これこそが、日本の温泉文化を守りつつ、脱炭素化を進める持続可能なエネルギーシステムの理想形なのである。
お役立ち情報
- 経済産業省 資源エネルギー庁 - 地熱発電の現状と課題
資源エネルギー庁による、日本の地熱発電・バイナリー発電の導入状況、固定価格買取制度(FIT/FIP)における支援内容、および自然公園法などの規制緩和に向けたロードマップ。 - 新エネルギー・産業技術総合開発機構 (NEDO) - 地熱・温泉熱利用技術開発
NEDOによる中低温の温泉熱を利用したバイナリー発電システムの高効率化技術や、地下構造の探査・シミュレーション技術の開発プロジェクト情報。 - 日本地熱学会 (The Geothermal Research Society of Japan)
学術団体としての日本地熱学会公式サイト。温泉バイナリー発電の熱源評価や環境共生、カスケード利用に関する学術論文やシンポジウムの開催報告資料。