宙に浮く磁石の謎:マイスナー効果とピン留め効果、超伝導が起こす2つの奇跡
極低温に冷やされた超伝導体の上に磁石を近づけると、磁石がふわりと宙に浮き上がる──。
科学館の実験ショーや物理の授業でよく見られるこの劇的な現象を見て、「マイスナー効果(完全反磁性)によって浮いている」と記憶している方は多いでしょう。しかし、物理学の厳密な視点から見ると、その説明は半分しか合っていません。
実は、磁石が単に浮くだけでなく、その場に「カチッと固定されて落ちない」という不思議な安定性を保っているのは、マイスナー効果とは全く異なるもう一つの物理現象「ピン留め効果(フラックス・ピンニング)」のおかげなのです。

マイスナー効果:磁気を押し返す「完全反磁性」
まず、超伝導の最も象徴的な性質である「マイスナー効果」についておさらいしましょう。
金属などの物質が特定の温度(臨界温度)以下に冷やされて超伝導状態になると、電気抵抗が完全にゼロになるだけでなく、内部の磁場を外に閉め出す性質を示します。これを「完全反磁性」と呼びます。
超伝導体に磁石を近づけると、超伝導体の表面に永久電流が流れ、磁石の磁力線を打ち消すような磁場(反発力)を作り出します。これによって、磁石と超伝導体の間に「同極の磁石同士を近づけたとき」のような強い反発力が生まれ、磁石が上に押し上げられます。
しかし、もし超伝導体にマイスナー効果「だけ」しか働いていなかったとしたら、磁石を浮かせることはできても、その状態を維持することはできません。なぜなら、反発力は単に押し返しているだけなので、磁石はすべり台から滑り落ちるように、バランスを崩してあっという間に横へ滑り落ちてしまうからです。
ピン留め効果:空間に磁石を固定する「見えざる楔」
磁石を滑り落とさせず、まるで空気の見えない柱で支えられているかのように空間に固定しているのが、第二種超伝導体で見られる「ピン留め効果(フラックス・ピンニング)」です。
超伝導体には、磁力を100%完全に排除する「第一種超伝導体」と、強い磁力に対して一部の磁力線を細い糸(量子化磁束)のように自らの中に通す性質を持つ「第二種超伝導体」があります。現在、リニアモーターカーの実験や医療用MRIなどで実用化されている超伝導物質のほとんどは第二種です。
第二種超伝導体に強い磁石を近づけると、磁石から出た磁力線が超伝導体の内部を細い束になって貫通します。このとき、超伝導体の中に存在するわずかな不純物や結晶の境界(欠陥)部分に、磁束線が「ピンで留められた」ように引っかかって動かなくなります。
これが「ピン留め効果」です。
- 磁石を動かそうとすると、超伝導体内の磁束線も動かなければならない。
- しかし、磁束線は不純物などにガッチリとピン留めされている。
- 結果として、磁石は空間のその位置に「磁気的にロック」され、手を離しても横に滑り落ちず、さらには超伝導体を逆さにしても落ちずにぶら下がり続けます。
超伝導がもたらす革新と未来のインフラ
このマイスナー効果による「反発力」と、ピン留め効果による「位置の安定化」のタッグによって、摩擦が一切ない完全な非接触の浮上技術が実現しています。
リニア中央新幹線では、この超伝導磁石を利用して、時速500kmでの超高速走行と圧倒的な静粛性を両立させています。また、摩擦損失が皆無であることを活かした超伝導フライホイール蓄電システムや、長寿命な非接触ベアリングなど、エネルギー効率を極限まで高めるための基盤技術として、産業技術総合研究所(AIST)などで日々研究が進められています。
物理学におけるこの2つの効果の違いを理解すると、あの静かに浮く磁石の見え方が、少し違ったものになってくるはずです。
お役立ち情報
- 日本物理学会 物理学の研究発表や普及を行う一般社団法人。会誌やWebページで、超伝導をはじめとする最先端の物理現象を日本語で紹介しています。
- 産総研:超伝導エレクトロニクス研究グループ - 産業技術総合研究所 日本最大級の公的研究機関である産総研の超伝導研究部門。超伝導デバイスの応用や、エネルギー分野への展開に関する解説記事が充実しています。
- 超伝導の基本原理と応用 - 電気学会 電気・電子分野の工学的な視点から、超伝導の歴史、物理的基礎、超伝導送電線やマグネットなどへの実用化事例を詳細に解説した技術資料を公開しています。