「開けやすさ」をデザインする:アフォーダンスと人間工学から見るパッケージデザインの極意
日常の中で、食品のパックが切れなくてハサミを探したり、ペットボトルの蓋が硬くて苦労したりした経験は誰にでもあるはずです。一方で、何の工夫も施されていないように見える牛乳パックや段ボール箱が、驚くほど直感的に、かつスムーズに開けられることもあります。
この「開けやすさ」の差は、決して偶然ではありません。そこにはプロダクトデザイナーによる緻密な**アフォーダンス(行為の誘導)の設計と、人間の身体特性を考慮した人間工学(エルゴノミクス)**に基づくアプローチが存在します。
1. 開封へと導く「アフォーダンス」の設計
デザインにおけるアフォーダンスとは、プロダクトの形状や質感が、ユーザーに対して「どのように操作すべきか」を説明書なしで伝える仕組みのことです。
視覚的な手がかり(シグニファイア)
パッケージをどこから開けるべきかを示すために、デザイナーは**シグニファイア(視覚的記号)**を配置します。
- つまみ(タブ): スープ缶のプルタブや、ヨーグルト容器の端にある突起。これらが周囲から少し飛び出していることで、人間は本能的に「ここを掴んで引っ張る」と理解します。
- 色やテクスチャのコントラスト: 開封箇所だけ色を変えたり、矢印のエンボス(凹凸)加工を施したりすることで、視線が自然にそこへ誘導されます。
- ギザギザ(鋸歯): スナック菓子の袋の端にあるギザギザは、「ここなら簡単に裂くことができる」という物理的なアフォーダンスを提供しています。
触覚的な手がかり
視覚だけでなく、指先が触れた時の感覚(テクスチャ)も重要です。滑り止めのスリットや、開封口のザラザラした質感は、視力の弱いユーザーであっても、触るだけで開封方向を特定できる強力な手がかりとなります。
2. 人間工学に基づく「力」のコントロール
どんなに開ける場所が分かりやすくても、必要な力が大きすぎれば、高齢者や子供、筋力の低下した人にとってそれは「開かないパッケージ」になってしまいます。
開封荷重(Opening Force)の低減
人間工学設計において、パッケージを開けるために指先にかかる「力(トルクや引っ張り力)」の適正化は重要な課題です。 例えば、ペットボトルのキャップには縦方向に溝(ナーリング)が掘られています。これによって指とキャップの摩擦力が高まり、より小さな握力(滑り落ちない力)でキャップを回転させるトルク(回転力)を生み出せるようになります。
国際規格 ISO 17480 とアクセシブルデザイン
パッケージの「開けやすさ」には国際的な共通基準が存在します。それが**ISO 17480**(accessible design — ease of opening:アクセシブルデザイン — 開封性)です。
この規格は、高齢者や障害を持つ人々を含めた幅広い層が、ハサミやカッターといった外部工具を使わずに安全に開封できるパッケージの設計指針を定めています。日本においては、この国際規格を元にしたJIS S 0021-2(高齢者・障害者配慮設計指針 — 包装・容器 — 開封性)が策定されており、日本の多くのメーカーがこのガイドラインに準拠したデザインを行っています。
3. 身近な「開けやすさ」のイノベーション事例
私たちの周りには、これらの原則が応用された優れたパッケージデザインが溢れています。
- シャンプーボトルの「きざみ」: 視覚に頼らず、触るだけでコンディショナーと区別できるよう、シャンプーのボトル側面にはギザギザの「きざみ」が施されています。これも人間工学的配慮の一種です。
- イージーオープン缶: レバーを引っ張るだけで蓋全体が取れるフルオープン缶は、爪を傷めずに弱い力でも開封できるよう、蓋の切り込み(スコア線)の深さがミクロン単位で設計されています。
まとめ:ユニバーサルな心地よさをデザインする
良いパッケージデザインは、単に中身を保護して運ぶだけでなく、ユーザーが中身を取り出して使い始める最初のステップを「快適な体験」に変えるものです。アフォーダンスで迷わせず、人間工学の力加減で負担をかけない。そんなユニバーサルな優しさが、日々の生活を少しずつ便利に支えています。
お役立ち情報
- ISO 17480:2015 - Packaging — Accessible design — Ease of opening 国際標準化機構(ISO)によるパッケージ開封性に関するアクセシブルデザインの公式規格ページです(英語)。
- 日本包装技術協会(JPI): 包装のユニバーサルデザイン 日本の包装業界団体による、ユニバーサルデザインパッケージの普及活動や規格(JIS規格)についての解説・レポートが日本語で掲載されています。
出典: